
地域から未来を創る:デジタルローカルハブの可能性
日時:2025年9月18日13:30~ 場所:プラザヴェルデ コンベンションホールA-1

第1部 基調講演
株式会社野村総合研究所 研究理事 未来創発センター長 神尾 文彦 氏
講演ではまず、地方都市がデジタル技術を活用して自立的な経済圏を形成する「デジタルローカルハブ」という概念が紹介されました。これは単なる地方創生ではなく、生産性と創造性を兼ね備えた都市モデルを構築することを目的としています。
次に、ドイツの地方都市の事例としてレーゲンスブルク、エアランゲン、ミュンスター市、コーブルクなどが紹介されました。これらの都市では、グローバル企業・大学・地域企業が連携し、高い生産性を実現しています。特に、企業の「スピンアウト」や「スピンイン」といった成長メカニズムが注目されました。
日本国内の事例としては、京都や鶴岡市、北海道の帯広圏、唐津市が取り上げられました。鶴岡では慶應大学の研究所を中心にバイオベンチャーが育成され、地域経済に大きく貢献しています。また、静岡県東部(三島・沼津など)もポテンシャルが高く、今後の戦略次第で飛躍が期待される地域として言及されました。
最後に、地域戦略としては縦割りの中央管理から地域主体の横の連携への転換が必要であり、経済戦略・デジタル戦略・人材育成・空間設計などを統合した包括的なアプローチが求められると強調されました。 本講演は、地方都市が持つ可能性と、それを引き出すための戦略について多くの示唆を与えてくれるものでした。地域から未来を創るために、今こそデジタルローカルハブという考え方を実践に移す時期なのかもしれません。
ローカルハブの形成と地域のデジタル化をどう進めていくのか

第2部 地域会議 パネルディスカッション
■ ファシリテーター 神尾文彦 氏(野村総合研究所)
■ パネリスト
・沼津工業高等専門学校 校長補佐・地域創生テクノセンター長 鈴木静男 氏
・沼津市長 頼重秀一 氏
・沼津信用金庫 理事長 鈴木俊一 氏
・三島信用金庫 理事長 高島正義 氏
●神尾文彦 氏
自立経済都市圏の創生を念頭とした、経済戦略、デジタル化戦略、人材戦略について
■ 各パネリストの発言要旨
● 沼津市長 頼重秀一 氏
- 「クロステック沼津」スマートシティ構想を紹介。
- 既存の街を活かし、ICT技術を導入した都市のトランスフォーメーションを推進。
- 市民・企業・大学との連携による三官民協働のまちづくり。
● 沼津信用金庫 鈴木俊一 氏
- 「沼信コンパス」拠点を活用した創業支援・若手経営者育成。
- 地域のデジタル化支援、AI・DX推進ローンの創設を検討。
- 地元大学との連携による人材育成と情報交流の場の提供。
● 三島信用金庫 高島正義 氏
- 三島駅周辺にローカルハブ拠点を設置し、首都圏との人材連携を強化。
- スタートアップ支援拠点「LTGスタートアップスタジオ」の運営を開始。
- 副業マッチングや二地域居住促進によるイノベーション人材の確保。
● 沼津高専 鈴木静男 氏
- AI・データサイエンス人材育成に向けた教育体制の強化。
- 地元自治体・企業と連携した課題解決型教育を推進。
- 文部科学省の認定制度に基づくリテラシー・応用基礎教育の展開。
神尾文彦氏
- 経済戦略とデジタル化戦略
- 地域の生産性・創造性向上に向けた取り組み
- デジタルローカルハブの形成と人材育成について
■ 沼津市長 頼重秀一氏
- 沼津は企業・教育機関・研究機関が揃った恵まれた地域。
- デジタルローカルハブの構成要素が整っており、行政の役割は大きい。
- 人材育成と地元定着が重要。首都圏への流出を防ぐための施策が必要。
- 「来なくてもいい市役所」を目指し、スマート窓口や電子申請の導入を推進。
- AIを活用した情報配信や行政サービスの最適化にも取り組む。
■ 沼津高専 鈴木静男氏
- 文部科学省の「スタートアップ教育環境整備事業」に採択。
- 若者の技術力と柔軟な発想を活かしたスタートアップ支援を強化。
- 地元企業との連携によるコンテスト開催、実証実験の推進。
- 全国規模のAIコンテスト「Dコン」から学生起業が複数誕生。
- 社会課題解決型の人材育成を重視。
■ 三島信用金庫 高島理事長
- 地域のイノベーションサイクルを回すため、創出・連携・誘致・育成の各ステージに対応。
- 人口減少に対応するため、デジタル化による生産性向上が不可欠。
- DXアドバイザーと連携し、276社のIT導入支援を実施。
- 観光分野ではデジタル観光マップを作成。
■ 沼津信用金庫 鈴木俊一理事長の発言要旨
- 「誰一人取り残さないデジタル化」を目指し、アナログ層への支援も重視。
- スマホ教室やバンキングアプリの普及支援を実施。
- Webローン申込の急増、キャッシュレス対応の推進。
- デジタル地域通貨と預金商品の連携による地域経済活性化を検討。
- AIによるビジネスマッチングの可能性を模索中。
■ 神尾文彦氏 総括的な視点
- 地域の持続可能性には人材の定着と育成が不可欠。
- デジタル化は行政サービスの効率化だけでなく、生活環境整備にも直結。
- AIやスタートアップ支援を通じて、地域経済の活性化を図る。
■まとめ デジタル化の総括
- デジタル化は効率化・利便性の向上に加え、街づくりや社会課題解決の手段として重要。
- 地域の企業がAI・DXを活用し、全国・世界へ技術を波及させる可能性がある。
- 地域特有の課題に対して、臨場感あるデジタル技術の活用が期待される。
■ 沼津高専の人材育成改革(鈴木校長補佐)
- 令和9年度より「先端理工学科」へ再編。情報を基盤に分野横断的な学びを提供。
- 地域企業と連携したPBL(課題解決型学習)を導入予定。
- 5分野(ロボット・ヘルスケア・フード・環境防災・教材開発)に30〜40のサブテーマを設定し、それぞれで企業と連携。
- 地域創生交流会を通じて企業との連携を強化し、コーディネーター配置を検討。
- 教育・研究・インターンシップを統合し、地域との信頼関係を継承・発展させる。
■ 三島信用金庫 高島理事長の提言
- 学生の参画が地域イノベーションの鍵。
- 地元経済界と学生をつなぐデジタル掲示板のような双方向コミュニケーションが必要。
- 「西伊豆未来デザインコンテスト」では学生の提案が採用され、移住も視野に。
- 地域のハブ拠点を連携させ、面として広がる構造を目指す。
■ 沼津信用金庫 鈴木理事長の補足
- 沼津高専卒業生がスタートアップ支援拠点「沼信コンパス」に多数入居。
- 地元大学との連携により、高度な情報交換と人材育成が進展。
■ 沼津市長の総括
- 行政として人材育成に積極的に関与。女性の活躍支援や副業人材とのマッチングも推進。
- AI・ICT・DXの導入は人口減少時代の対応策として不可欠。
- 「来なくてもいい市役所」やAIによる防災対策など、スマート行政を目指す。
- 地域に実証実験の環境と協力企業が揃っており、全国・世界への展開も可能。
- 地域が一体となって「デジタルローカルハブ」の実現を目指すべき。
■野村総合研究所 神尾文彦氏の総評
- 各パネリストがそれぞれの視点でデジタル化を推進していることがよく分かった。
- デジタル化は単なる効率化・利便性の向上だけでなく、街づくりや社会課題の解決、そして地域連携の手段として重要。
- 沼津・三島地域では、AIやDXを活用する企業が成長し、全国・世界へ技術や取り組みが波及する可能性がある。
- 地域特有の課題(首都圏との距離感など)に対して、臨場感あるデジタル技術を活用した企業間交流や経営相談の仕組みが求められる。
- 地域の課題を解決するAI・デジタル技術を産業化する視点も重要。
閉会の言葉 (静岡経済同友会東部協議会 大橋副代表幹事)
- 地域リーダーによる具体的な提言と実践が、未来のビジョンを明確にした。
- デジタル技術による住みやすい街づくりが実感されている。
- 今後も政策提言と社会課題解決を通じて地域発展に貢献していく。
